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8話-1 命に代えても。

last update Last Updated: 2025-04-12 20:01:00

* * *

フェリシアが魔の細く長い両手で包み込まれそうになった時、

自分の名を呼ぶ声が聞こえ、弓矢が飛んできて魔の右手に当たり、その手のみ浄化され、

三つ編みにして一つに束ねた髪を揺らし、弓矢を放ったクォーツの姿が見え、駆け付けて助けに来てくれたのだと分かった。

けれど、その直後、怒った魔は長い髪のようなものを生やし、頭上から自分の腰を両内側の髪で縛り上げ、

外側の両髪をまるで、大きな口を開けて食べるようにクォーツを目掛けて放った。

その為、クォーツは自分に近づけず、

駆け付けてきたリリーシャ、ラズールが剣で両髪をかっこよく斬り裂き、髪先を浄化するも、

髪はどんどん増え、攻撃は止まず、ふたりも苦戦を強いられている。

そして自分も一瞬でも気を抜ければ、すぐに体を乗っ取られてしまうだろう。

中庭に出なければ。

魔除けのネックレスさえ失くさなければ。

そう、深い後悔の念がぐるぐると脳内を駆け廻(めぐ)る。

これはきっとエルバートの言いつけを守らなかった自分への戒め。

魔はクォーツ達に攻撃を続けながら目線を自分に向け、

欲シイ、と精神に強く声を響かせる。

フェリシアの瞳が黒ずんでいく。

なぜ、そこまで自分の体が欲しいのだろう?

祓いの力も何もないのに。

帰るまで待っていろとエルバートに言われたけれど、

(もう、諦めるしか…………)

「エルバート様からの伝言でございます。“今すぐ家に帰る”とのことです!」

飛んで戻ってきたリリーシャの式神らしきものの声が聞こえ、

フェリシアの瞳に再び光が灯り、気を持ち直す。

(ご主人さまが家に――――きっと、早退されたのだわ)

大変なご迷惑を掛けてしまった。

謝っても許されず

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